沖縄タイムス
2009年12月01日 社説
[鳩山・仲井真会談]
知事の真意が見えない 米軍普天間飛行場移設問題で、鳩山由紀夫首相と仲井真弘多知事が会談した。知事は「普天間の一日も早い危険性除去のため、明確な方針と具体案を示してほしい」との要望書を手渡した。「最終的に私が決める」と明言している首相への要望といいながら、知事の真意がはっきりしない。首相に丸投げし、決定が県内移設であれ何であれ、従うという意味なのだろうか。首相に「県内で県外移設の実現を期待する声が大変高まっている」と伝えたのも何か人ごとのように聞こえる。
仲井真知事に欠けているのは基地問題で、将来展望を示すことができていないことだ。大田昌秀元知事には2015年までに全面返還を目指す基地返還アクションプログラムがあり、辺野古移設を容認した稲嶺恵一前知事は、15年使用期限、軍民共用などの高いハードルを設定した。仲井真知事は沖合にずらす以外、何の縛りも付けていない。
県外、国外移設がベストだが、これから作業を始めると時間がかかり、普天間が固定化される。次善の策として辺野古沖合案を受け入れるというのが仲井真知事の姿勢だ。
日米両政府のハイレベルの作業グループは年内の結論を目指すとする。だが、最初から県内移設ありきであっては検証の意味がない。普天間を抱える伊波洋一宜野湾市長さえ「必ずしも年内に決める必要はなく、いろんな道を探してほしい」と要望している。
外国軍隊を60年以上も駐留させ、しかも沖縄に集中させる基地のあり方が21世紀の市民社会に沿うものなのかどうか、仲井真知事が鳩山首相に問うべきはそこではなかったのか。
民意を体現するのが政治家である。衆院選や県議選、全国紙や県内2紙の世論調査でも明らかなように、民意は県外、国外移設を求めている。仲井真知事が普天間の危険性除去を理由に、県内移設を進めようとするのは論理矛盾ではないか。常駐機の数が多く戦闘機も運用する嘉手納基地の危険性に知事はどう対処するのか、これまで言及したことがない。基地問題に対する本気度が伝わらない。
渉外知事会長の松沢成文神奈川県知事が米国での講演で「辺野古しか解決策は見えない」との見解を示した。脇で聞いていた仲井真知事は反論するどころか、「県内移設もやむを得ない」と持論を述べただけだった。知事は米国でどのようなメッセージを発したかったのだろうか。
ここに来て注目すべき動きが出てきた。大阪府の橋下徹知事は、普天間の航空機の一部訓練を関西空港で行うことについて「政府から正式に提案があれば議論は拒否しない。関西全体で積極的に議論に参加したい」との姿勢を見せた。「沖縄の経済振興策と基地負担の軽減は、日本人総出でとりかからないといけない」とも話した。
仲井真知事のベストは、県外、国外移設というのが本気ならば、橋下知事と会い、連携する道を探るべきだ。日本における米軍基地のあり方を問い直す国民的議論の鍵は、仲井真知事の目の前にある。
琉球新法
社説 普天間会談/失われた13年を繰り返すな 海兵隊駐留の是非も論議を2009年12月1日
仲井真弘多知事の「県民の声」は、鳩山由紀夫首相に伝わっただろうか。また、知事は、首相に県民の思いを正しく伝えただろうか。
市街地に位置する危険な普天間飛行場の撤去は、一日も早く実現させねばならないが、結論を急ぐあまり、名護市辺野古沿岸部への日米合意案が「セカンドベスト」だと結論付けることを多くの県民が、望んでいるだろうか。
仲井真知事は、首相官邸での鳩山首相との会談で、米軍普天間飛行場の一日も早い危険性除去と沖縄の基地負担の軽減を求めた。
◆結論ありきの検証
鳩山政権発足後、知事と首相の公式な初会談だったが、知事は政権発足後、県外移設の実現を期待する声が高まっていることも伝えた。
衆院選の中で「最低でも県外」と唱えてきた鳩山首相は、知事との会談で「県外や国外移設への県民の関心が高まっているのは分かっている」と「県外・国外移設」への県民期待に理解を示した。
加えて、日米閣僚級の作業グループによる検証結果を受けて、判断することを明らかにしたが、県外・国外を「狭き道」とする外相や県内移設に傾斜する防衛相による結論ありきの検証では、県民を納得させることは難しい。
これまで何度か米国で、在沖海兵隊の削減計画が挙がった。在沖海兵隊は、冷戦時代の遺物ともいわれ、「世界の米軍基地は冷戦期に配置されたままで、新たな軍変革にも対応していない」と、かつて米高官も述べた。
海兵隊駐留の是非について、検証が必要ではないか。その上で、普天間飛行場の代替施設の必要性について論じるべきだ。
海兵隊検証は、1996年に当時の橋本龍太郎首相とモンデール駐日米大使が普天間飛行場の全面返還合意後、2006年の再編実施のための日米ロードマップ(行程表)取りまとめの段階までに、積極的に論議すべきだった。
だが、在沖米軍施設の受け入れについて、国内関係地域の選出与党国会議員などの消極的な点もあり、国内の政治事情で実現しなかった。
普天間移設を含めた米軍再編の見直しを示してきた民主党が政権に就いたのだから、課題解決への抜本的な論議があってもいいはずだ。
長島昭久防衛政務官は「なかなか県外、国外は言うはやすしで、現実問題として厳しいというのは政権の中でかなり共有された考え方だ」と知事と首相会談を前に語った。現実は厳しいとの発言だが、拙速になってもいけない。
普天間飛行場を抱える伊波洋一宜野湾市長は、危険性の早期除去の必要性は求めているが、結論を急いでいるわけではない。
◆政権の消極的な姿勢
岡田克也外相は普天間の移設先が決まらないと、嘉手納基地より南の施設の返還が白紙になる、とパッケージ(一括実施)論をかざし、解決を急ぐ。だが宜野湾市長は「必ずしも年内に決める必要はない。いろんな道を探ってほしい」と求めている。
本紙と毎日新聞の県内世論調査では、普天間問題で鳩山首相に対し「県外・国外移設を目指して米国と交渉すべきだ」が約7割を占めた。全国対象の調査では、共同通信社の世論調査で「県外・国外」が32・8%と最も多かった。だが、嘉手納統合案と現行案を合わせると国内世論は「県内移設」が多い。鳩山政権発足後の消極的な姿勢が世論にも表れていないか。県民の意思が全国に広がっていない印象だ。
そのような中、橋下徹大阪府知事が関西空港で一部訓練を受け入れる案について「国から提案があるなら初めから一切拒否というわけにはいかない」と述べた。直ちに受け入れる立場ではなさそうだが、「県外移設」は、まだ検証の余地が残されているのではないか。
普天間全面返還合意から13年が経過する。現行案に対する地元住民のこれまでの対応をみれば、政権が従来の日米合意案を推進するなら、変革に期待する県民世論を納得させることは難しいだろう。
地元住民、県民を翻弄(ほんろう)してきた「失われた13年」を再び、繰り返してはならない。鳩山政権は、普天間飛行場の必要性に対する是非を含めた論議と併せて、あらゆる可能性を検証し、県民の高まる期待に応えてもらいたい。
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